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HIROSHI FUJIWARA
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3)「クリエイティブのルーツとプロセス」藤原ヒロシ
既成概念を疑い、型にはまらないスタイルでカルチャーを横断してきた藤原ヒロシ。ファッション、音楽、アート、どの分野でも彼の選択は独特で、「らしさ」への執着とは無縁だ。
そんな彼がアートに対して抱く興味の中心にあるのは、意外にも「その人らしくないもの」だという。アーティストの代名詞とも言える代表作ではなく、むしろ「なぜ?」と思わせる違和感のある作品に惹かれる。その理由は、単なる逆張り的な好みではなく、藤原ヒロシならではの視点で世界を見つめる感性にあった。
美術館の作品の9割には興味が湧かないという彼が、それでも立ち止まる“たった1つの出会い”とは?
日常の中で感じるささやかなラグジュアリー、アートコレクションの裏側、そして「変わらない自分」について語る、静かで深いインタビュー。
――豊田市美術館の展覧会、とても面白かったです。ヒロシさんのアート活動やコレクションにも興味があるのですが、そういったものにどのように関わられているのか教えていただけますか?
そうですね、例えば最近コラボレーションした作品なんかも、出会いから商品化されるまでにかなり時間がかかることがあります。たとえば、アスガー・ヨルン(Asger Jorn)の作品は、僕が彼を知ったのは10年くらい前です。
―作品に出会ったのは80年代で、その作家がアスガー・ヨルンだと知ったのは10年前なんですね。そのきっかけは何だったのでしょうか?
セックス・ピストルズですね。彼らの背景や影響を深掘りしていく中で、アスガー・ヨルンにたどり着きました。それが10年くらい前のことです。出会った当初は、勿論ネットなどもなく情報も限定的で、正直言って彼の作品や活動の意図がよくわからなかったんですが、あるタイミングでその背景や意味が腑に落ちる瞬間があったんです。そこから自然と「こういう人たちがいて、こういうことをしていたんだ」と興味がどんどん深まっていきました。
――そこから実際に彼の作品集を買うようになったんですか?
そうですね、コレクションの中にあるものの一部は、最初はただ「これが使えるかな?」と思って買っていたものもあります。でも、その背景や意図を知ると、作品に対する理解が深まり、それがコレクションの中に残っていく感じです。
――ヒロシさんのアートコレクションには特徴的なものを集めているなど、意識されていることはありますか?
基本的には、自分が「好きだな」「面白いな」と思ったものを集めています。ただ、気がついたらある傾向が出ているなと思うことはありますね。
――それはどんな傾向ですか?
「その人らしくないもの」を集めていることが多いです。たとえば、あるアーティストが「こういうイメージで知られている」という前提があるじゃないですか。でも、そのアーティストが作った作品の中で「えっ、なんでこんなことをしているんだろう?」と疑問が湧くような作品に惹かれることが多いです。
キャラクターっぽい、いかにもその人らしいものよりも、「なんでこれをやってるんだ?」と違和感を覚えるような作品に興味を持ちます。それが結果的に自分のコレクションの傾向になっているのかもしれません。
――先ほどのお話で、第2次世界大戦後の抑圧されたムードからの解放をテーマにしたアートや表現に共感されることが多いと感じました。
実はそういった社会性のある背景を知ったのは最近のことです。最初は単純に作品を見て面白いと思ったのがきっかけです。たとえば、アスガー・ヨルンについても、最初に作品を知ったのは随分前ですが、それが実際にどんな背景を持った作品なのかを理解したのは後からのことです。
最初はレコードジャケットなどを通じて知っていましたが、その後に「オリジナルの本があるんだ」ということを知り、さらに興味が深まりました。
――ヒロシさんはアートや美術館に興味を持たれている印象がありますが、海外でもよく美術館に行かれるんですか?
そんなに行かないですよ(笑)。皆さんそう思っているかもしれませんが、僕は海外でもそこまで頻繁に美術館に行くわけではないです。タイミングが合えば行くこともありますが、特に「海外だから美術館に行こう」と思うことはありません。
どんな美術館に行っても、正直なところ9割くらいの作品には興味がありません(笑)。1つひとつの作品をじっくり見て「面白い」と思うタイプではなく、興味がない作品にはさっと目を通すだけで、そのまま次に進んでしまいます。
――気になる作品だけをピンポイントで見ていくというスタイルなんですね。
まさにそんな感じです。全てをじっくり見るというよりも、自分が面白いと思ったものだけを見て、それ以外はスルーしますね。美術館も「さっと見てさっと帰る」というスタンスが多いです。
――NewJeansのライブに行ってすぐ帰られた、というエピソードも聞きました。ご自身で楽曲制作をされている中で、ライブなどで大音量の音楽を楽しみたくなることはありませんか?
大音量で音楽を聴きたいと思うことは、ほとんどないですね。ライブやイベントに足を運ぶことはありますが、どちらかというと仕事の一環として行くことが多いです。少し雰囲気を見たら満足してしまうので、顔を出して軽く様子を確認したら、すぐに帰ることが多いですね。
――海外の方だと、何歳になってもパーティーやお酒を楽しむ人が多い印象ですが、ヒロシさんはそういった場にはあまり興味がないですか?
そうですね。パーティーや大規模なイベントにはほとんど興味がないです。ファッション業界やアート業界のイベントなどに顔を出すこともありますが、本当に一瞬顔を出して帰ることが多いです。
――では、ヒロシさんが「好きだな」「楽しみだな」と思うのはどんな時間ですか?
気の知れた人たちとご飯を食べながら話す時間は好きですね。ただ、必ずしも「気の知れた人」である必要はなくて、初めて会う人やそれほど親しくない人でも、面白い会話ができると楽しいです。
派手なイベントよりも、食事や会話の中でのコミュニケーションが自分には合っていると思います。
――以前のインタビューで、「年に一度、ヨーロッパを車でドライブすることが、自分にとってのラグジュアリー」とお話しされていたのが、とても印象的でした。
そうですね。高級なホテルに泊まるとか、特別なイベントに行くというよりも、日常の中でそういった瞬間を感じられる方が好きです。ドライブもその一環で、特別な体験を求めているわけではなく、気が向いたら楽しむ感じです。
――最近、そういった日常の中で楽しいと感じた出来事はありますか?
最近はあまりそういった特別な体験はしていないかもしれません。でも、例えば天気予報を見て「雪が降りそうだな」と思ったら山に行ってみたり、そういうことは今でもあります。
――雪山にも毎年行かれているようですが、年齢のことなど気にせずに続けられているんですね。
年齢は特に気にしていません。バックカントリーなども昔からやっているので、普通のこととしてやっています。ただ、雪が降ると自然と「行きたいな」という気持ちになるんです。毎年のように行っていますが、それでもやっぱり雪山の景色には惹かれますね。
ー INTERVIEW ー
「クリエイティブのルーツとプロセス」
―― 60年の先に見えた、変わり続ける自分と揺るがない軸
Interview By Teppei Ikeda / Yuichiro Nomoto (Director
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Photography By Kenta Karima
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