Crew REALDEAR Inc. CEO Yoshiaki Sakito
Yoshiaki Sakito
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-特集-
カルチャーの未来は一人一人が“自分で創る”
ー特集ー
2021年、渋谷カルチャーの明日
カルチャーの未来は
一人一人が“自分で創る”
リアルディア 代表取締役社長 前刀禎明
インタビュー
Interview By Tasuku Amada
Photography By Suguru Saito
2019年9月にナイトマーケットイベントとしてスタートし、累計来場者数1万5000人を記録してきた『東京夜市』。コロナ禍となる今回はオンラインでの開催に変更し、トークとライブの2本柱でビジネスとエンターテイメントから渋谷を盛り上げていく。
今回は『東京夜市』のトークセッションに登壇する前刀禎明さんにインタビューを敢行。ソニーやウォルト・ディズニーなどでのキャリアを経て、アップルでは米国本社副社長兼日本法人代表取締役を務めたのち現在に至るという活躍を続けて来た彼が語る、未来を自分で創るための思考法とは。そしてこの閉塞的な世の中をより豊かに生きるための発想の変え方について語ってもらった。
Profile:前刀禎明
株式会社リアルディア 代表取締役社長
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、ライブドアを創業。スティーブ・ジョブズ氏に日本市場を託され、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。独自のマーケティング手法で「iPod mini」を大ヒットに導き、危機的であったアップルを復活させた。現在、リアルディア代表取締役社長。ラーニングプラットフォームの開発、コンサルティングなどを手がけている。「DEARWONDER」は、創造的知性を磨くアプリ。プロが学ぶオンライン料理講座「DEARCHEF」は、フランス料理の三國シェフ、NTTドコモとのコラボ。
AI inside株式会社 取締役、mui Lab株式会社 エグゼクティブ・アドバイザー。
変化を求められる時世、見方を変えれば“何でもできる”世の中
「東京夜市」が今年掲げるテーマは「ここから、新しい未来がはじまる」。新しい未来とはつまり、より良い《変化》を選びとり紡いでいく未来のことだろう。
コロナ禍の混乱によって多くの人が様々な《変化》に対応することを迫られているが、前刀さんにこの《変化》という言葉を投げかけたとき、意外にもワクワクするような表情を浮かべてこう言った。
「僕は変化することが好きなんです」
そしてこの混乱の時代を、それでもなお豊かに生き抜くためのヒントが含まれているような、そんな話を続けてくれた。
「ビジネスマンのなかには、いつかコロナが終わって元どおりに戻ることをいまだに想像している人も意外と多いような気がします。でもコロナが終息しても、なにもかも元どおりになることはありえないじゃないですか。ありえないけれど、そう信じていたい。そういう“変わりたくない”とか“変えたくない”というマインドは、実は日本人らしい気質のようにも思います」
「たとえば平成の30年間で日本の国際競争力が低下していくあいだ、それでも変わろうとしない世の中が僕は嫌だなとずっと思ってきたようなタイプなので、変わらざるを得ないという今の世の中はむしろ楽しいもののように感じるんです。昔の話で例えるなら戦国時代、乱世みたいな状態になってきているから、本当に何が起きるか分からないし、考え方によっては何でもできるということでもある。より動きやすくなったなという感覚があって、僕はそれが好きなんですね」
これまで積み重ねてきた平穏な生活や仕事のありようを変化させていかなければならないことは、多くの人にとっては不安で、怖いことのように思われる。しかし前刀さんの感覚は真逆だ。
「僕にとっては、ずっと変わらないでいることのほうがむしろ不安なんです。
僕がソニーから初めて転職をしたのが30歳の頃、それから何度も転職を重ねてきましたが、それはつまり何度もリセットしてリスタートできるということなんです。そうやって理想に近づいていく。そういうことを何度も繰り返しやっているわけです」
変化すること、リセットしてリスタートを切ることは、自分にとってより良い未来を模索するためのトライであり、それは何度繰り返してもいい。そう考えることができれば、確かになんだか心強い。
そうやって人生の、あるいは社会の未来を模索していくことに関して、前刀さんはこうも話す。
「“模索”っていうと、探している答えが必ずどこかあるというニュアンスですが、僕はこういうとき、正解は“創るもの”だと思っているんです。だからビジネスにおいても、“未来予測”ではなくて“未来創造”だと思っています。
平成から令和に変わるときに、街頭インタビューでメディアがこぞってしていたのは『あなたは令和がどんな時代になってほしいと思いますか?』という質問でした。あたかも令和という時代が天から降ってくるかのように、時代は与えられるものであるかのように。
そうじゃなくて、本当は『あなたは令和をどう生きたいと思いますか?』とか『令和をどんな時代にしたいですか?』と聞かなきゃいけない。一人一人が主人公で、当事者意識を持って動いていく結果が、時代の未来。未来は創っていくものだという感覚が僕にはあるんです。未来は自分次第。自分の人生を自分でコントロールできないなんてつまらないじゃないですか。
だから、渋谷のカルチャーを考えるときも同じこと。『渋谷の街がどうなってほしいか?』と考えるのではなく、渋谷にいる一人一人が『どんな街にしたいのか?』と考えてほしいです」
渋谷のカルチャーを盛り上げるために、みんなに受け身でなく主体的に関わってほしい??そんな思いから立ち上げられたのが、この『Shibuya Culture Scramble』というWEBメディアだ。渋谷カルチャーを自分ゴトとして考えられる人をもっと増やしたい。この街の未来を主体的に創っていこうとする人たちが集まる“場”になりたい。
「すばらしいです。そういう発信をすることに僕は大賛成です。
近頃は、好きなものを与えられるということに人は慣れてしまっていて、それをエンジョイするだけになっている。好きなものを自ら創っていこうという人はまだまだ少ないですよね。 どうしても日本人って謙遜を込めて『自分なんて…』って言うじゃないですか。そうじゃなくて『自分だって出来る』という気持ちにみんながなってくれると、どんどん新しいカルチャーが生まれてくると思います」
閉塞的なコロナ禍、カルチャーを楽しむために一人一人ができること
しかし2021年、相変わらずのコロナ禍にあって、街で育まれるカルチャーは今、人々の豊かな日々のためにどれだけの役割を果たせているだろう。ともすると“不要不急”であると敬遠されかねないのがエンタメやアートといったカルチャーだ。充実した日々を暮らすためにカルチャーが“必要”であるとは、今は考えられない人も多いように見える。それはとても悲しいことであるのだが。
「今の時代にエンタメやアートを発信しづらい、楽しみづらいというのは確かにあると思います。でもそれってコロナがなかった時代と比べて言っているわけです。でも、そこと比較して話していても時代はもう戻らないわけだから、そもそもの前提というか、固定観念を覆す新しい取り組みや新しい発信の仕方、新しい楽しみ方を創ることを考えていったほうがいいと思います。
ただそういう新しいやり方が、今すぐに良い結果として現れないのは、ある意味無理もない話。
例えば仕事にしたって、リモートが中心になってから作業効率が下がったという人がほとんどなわけです。でも、そんなのは当たり前で、それまで何十年もやってきた仕事のスタイルから今のスタイルに変わってまだ1年半ですよ。それだけの経験しかないやり方で、何十年も慣れ親しんだやり方よりも効果を出せることってあんまりないですよ」
「でも、大丈夫。みんな時間が経てば慣れるから。今たったこれだけの短い期間の変化だけを見て物事をネガティブにとらえるのはやめたほうがいいだろうなと、僕は思っています。 でも、そのときに大切なのは『待っていても、はじまらない』ということ。作り手も受け手もみんなが、自分自身を新しいスタイルに変えていく。自分らしいやり方と自分らしい未来を創っていくということを、一人一人がやることが重要です」
新しい視点を磨き、楽しんで創れる「新しい未来」
そんな前刀さんが、今いちばん気にかけているのはどんなことなのだろう。
「最近、声を大にして言っているのは『ワンダーラーニング』という言葉。好奇心をふくらませ、物事の見方を少し変化させることで、固定観念から開放された自発的な思考をしていけるという考え方です。
日常生活の中でも、気づいていないだけで、面白いことって実はたくさんあるんです。それを発見する感性、新しい視点を磨いていこうということですね。
たとえば僕がいつも朝散歩に行く公園に桜があって、ちっちゃいサクランボがなっていた。それを食べてみたらすごく酸っぱかった。これはまだ熟していないのかなと思って、色がもっと濃いやつを食べてみたらもっと酸っぱかった。(笑) そこで、これはひょっとしたら食べちゃいけなかったのかなと…。(笑) それで今度は自販機で水を買って、大量に水分で薄めようとか、そんなことを朝から楽しんでやっていたりとかね。朝日を浴びながら、そんな小さな学びを楽しむことは、すごく幸せな気持ちになるものです」
一見たわいもないことのようにも感じられる、愛らしいエピソードだが、凝り固まった見方で世の中を見ていては、サクランボにも気づかなければ、まして食べてみようなどとは思わなかったのではないか。世の中の見方を変えることで、日々の生活の中からでも楽しく学びを掬い取ることができる。
「コロナ禍だから閉塞感もある。だからこそ自分自身の人生を“創っていく”という考え方をみんなができるようになってほしい。そのための取り組みを今一生懸命やっています。
頭を柔らかくする『DEARWONDER』というアプリを作ったり、フレンチの巨匠の三國清三シェフと一緒にオンラインの料理教室を配信したり。今まで僕が携わったディズニーやアップルなどのように、人々が豊かに暮らすための取り組みに尽力していきたいんです」
前刀さんが語る話に通底しているのは、豊かな日々を送るために、それを自分で創るのだということ。もちろん簡単なことではないはずだが、その意識を持って生活していたいと思わされる。
一人一人が心豊かに暮らしていれば、それはやがて街に集積し、より豊かな街の文化が醸成されていくのだろう。街のカルチャーを創っているのは、そこで暮らす一人一人だ。固定観念に囚われず、世の中の見方を少し変える??未来はみんなの考え方次第。「あたらしい未来」をより良くするためのきっかけは、実はみなさんの頭のなかにあるのかもしれない。
東京夜市 公式HPはこちら( 2021 9.16 – 9.20)
<INFORMATION>
前刀禎明
「学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう」
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