Crew Architect / Entrepreneur Tanijiri Makoto
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Tanijiri Makoto
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建築家 / 起業家(後編)
INTERVIEW
何故、トップクリエーターになれたのか?
Photography By Yuichiro Nomoto
Text:Aya Iwamura
Direction By PROJECT ONE
Tie-Up with yuhaku
Place:neji(https://www.instagram.com/neji.kyomachibori/)
建築家 / 起業家 谷尻誠氏
プロの仕事術 と 日々の愛用品 /
(後編
東京進出とともに訪れた2つのチャンス
『毘沙門の家』の雑誌掲載をきっかけに、完成する作品が次々とメデイアに紹介され、仕事にいい循環が生まれ始めてきた谷尻さんに、2008年、東京で展覧会を開く機会が訪れる。東京進出の好機だと感じた谷尻さんは、広島の事務所をそのまま移動したような展示を思いついた。あたかも東京事務所を開設したかのように、家具やテーブル を設置し、模型や図面、個人情報を伏せた見積書までを来た人が手に取れるように展示したのだ。
「いつか東京に出たいとは思っていました。でも、事務所を開設してもなかなか人に来てもらえないですよね。だから展覧会を利用しようと。本当に東京事務所をつくったんだと勘違いした人がたくさんいて、お祝いがたくさん届きました(笑)。」
会期が終わると同時に、東京事務所を開設。広島と東京、2拠点での活動がスタートした。
同年に、もう一つのチャンスに恵まれた。世界中のアートプロダクトが集まるエキジビション『DESIGNTIDE TOKYO 2008』の会場デザインを依頼されたのだ。谷尻さんらがつくり出した会場は、半透明の不織布を縫い合わせ、ヘリウム風船で天井から吊るすことによって空間をゆるやかに仕切った街並み。広い会場に数日間浮かび上がったかのような幻想的な会場は業界で話題に。東京での谷尻さんの存在感を揺るぎないものにした。
「この会場デザインをするときにも、何のためにやるのかと、原点に遡って考えました。たった数日間のエキジビションのためだけに、たくさん材料を使って会場をつくり、終わったら大量の廃棄物が出る。そのことに疑問を感じたのです。それなら不織布と風船を使ってみようと。会期後は、材料の全てが洋服のようにたたまれて段ボール数箱の中に収められる。これまでと全く違う考え方で会場設計ができました。」
Photo By 矢野紀行
その会場デザインをきっかけに、2010年、ミラノサローネでの東芝のインスタレーションを手がけることになった谷尻さん。 LED光源を繊細に表現した作品が注目を集め、海外の建築雑誌の表紙を飾ることとなる。その後も手がける作品は話題を呼び、谷尻さんの建築家としてのキャリアは、名実ともに不動のものとなっていった。
感動を生み出すためには、すべてをハンドリングしない
谷尻さんが、その輝かしい実績を語るとき、主語にする言葉が「僕ら」。いつも複数形なのだ。
「どの作品も、いろいろな能力を持つ人たちの力を借りてできあがったものだから。事務所のスタッフも、案件で協業する人たちもみんなパートナー。意見は言いますが、支配はしません。自分ができないことを信用できる人に任せてしまうんです。人って任せられた方が本気になりますから。」
自分が得意なのは「アイデアやコンセプトを原点から考える」こと。それを具現化するために、能力のある人と仕事をするのだと話す。
「組織やプロジェクトにおいても、あえて全てをハンドリングせず、どうなるか分からないことを前提にしておく。支配しすぎてしまうと自分の予測の範囲に収まるので、感動が薄れてしまうんです。予想以上のことを起こすためには、人を巻き込んで、ある程度自然の流れに任せてしまうんです。」
その考え方の根本は、自然物と建築物について思考した時に生まれたという。
「自然を美しいと思う心は万人に共通しています。でも建築物はどんなに美しくても、すべての人がそう思うとは限らない。自然にはかなわないわけです。ではその違いって何なのかを考えると、自然は、季節によって移ろう、成長する、思い通りにならないなどの要素があります。 一方で建築物は、サイズや形・素材を決め、成長しないなど、その全てが逆ですよね。ということは、成長するとか、季節によって移ろうという自然物の要素を建築物に込めれば、つまり、自然に近いものづくりをすれば、普遍的な美しさに近づき、よりピュアな感動が生まれるんじゃないかと思ったんです。そしてその考え方は、組織づくりやプロジェクトにも生かせるのではないかと思いました。だから思い通りにならないことが思い通りなんです。」
それは、谷尻さんの「作品スタイルを持たない」というスタイルにもつながる。
「建築家の中には、スタイルを確立された方が多い中、僕には分かりやすいスタイルがない。それは毎回クライアントも、場所も、予算も違うから。そこに合ったスタイルをゼロから考えるのが、僕にとっては自然なんです。」
大学教育を受けず、師匠と呼べる人もなく、若い頃は劣等感を感じていたという谷尻さん。だからこそ、
コンセプトをより分かりやすく社会に発信し、使う人に寄り添う建物をつくることに使命感を感じている。
「僕のような人間ががんばるからこそ、共感してもらえることがあるかもしれない。劣等感をエネルギーの糧にしようと意識を変えました。勉強はできないけど、『考える』ということなら勝負ができると思えた。案件ごとに根本から考えていくスタイルで、自然と多様な作品ができてきました。」
コロナ禍で生まれた働き方の自由を、より好きな仕事へとつなげたい
今、このコロナ禍においても、働き方や考え方にそれほど大きな変化はないという谷尻さん。まずはこの状況を、日常として受け入れることが大切だという。
「コロナの影響で、国内外のプロジェクトが相次いで止まり出した時は、流石に焦りました。少し時間が経って冷静になると、この時代だからこそできることもあるはずだと思い始めました。物事って常に、表裏一体。いつか元の状態に戻るんじゃないかと期待するから、この状況が不自由で嫌なものに思えるのではないでしょうか。」
2019年の夏から準備してきたオンラインサロン『社外取締役』を、緊急事態宣言の直後にリリース。多くの人が家から出にくい状態になり、パソコンやスマホを見る時間が長くなったこの時にこそ、これからのオンラインビジネスのあり方を示唆する場所が必要との判断だった。さまざまな能力のある人がオンラインの場で出会い、新しい事業をつくり出すことを試みる『社外取締役』は、谷尻さんと、異業種の二人が中心となり、メンバーみんなでつくり上げていくようなスタイルをめざした。現在、メンバーは一般社会人、学生、法人を含む200人以上。さまざまな立場の人たちがつながり合い、刺激し合う中で、これまでにないコンセプトのメディアや、ファッションブランド、お菓子ブランドなどのプロジェクトが進行中だという。https://shagaitori.com/
さらに仲間と2019年に立ち上げた家具や建材のプラットフォーム『テクチャー』(https://www.tecture.jp/)の事業も、本格的に軌道に乗り始めた。
『テクチャー』は、携帯のカメラを、雑誌などに載っている画像にかざすと、家具や建材などの品番確認からメーカーへの問合せまで、一気通貫で行えるARアプリ。今年の6月末にローンチし、ウェブメディアも運営している。
「コロナによって自分の中で変わったことと言えば、より好きな仕事をしていきたいという意識が強くなったこと。オンライン化が進んだことで働く場所が問われなくなり、暮らすこと、遊ぶこと、働くことがより近くなりました。より自由に働けるようになったからこそ、好きだと思える仕事をもっとつくっていくことを意識していきたいですね。」
最後にマインド的なターニングポイントについて訊ねると、谷尻さんは静かにこんな話をしてくれた。
「20代後半の頃、まるで兄弟のように毎日家に遊びに来ていた後輩の男の子がいました。その子は専門学校でグラフィックデザインを専攻していたので、『いつか建築とグラフィックを一緒にできるような会社をつくろう』と、二人で夢を語り合っていました。その後輩が、ある日突然事故で亡くなりました。僕はあまりのショックで、しばらく何も手につきませんでした。そんな僕に、ある人がこんな言葉をかけてくれたのです。『彼はこれ以上大変なことはないということを、 命を持って教えてくれた。だからきみが頑張らないと駄目だよ』と。その言葉にふと我に返りました。『どうせやるなら目の前のことを一生懸命やってみよう。本気で建築に向き合おう』 と。それから、不思議とだんだん仕事が回り出したんです。あの言葉がなければ、今の僕はいません。そしてその言葉は、今でも僕の進むべき道を照らし続けているように思うのです。」
Column
日々を彩るプロフェッショナルの愛用品
プロフェッショナルたちが普段持ち歩いている必需品や仕事道具を見せていただきながら、モノに対するこだわりを紐解く。
「モノを選ぶ基準は、シンプルに好きだなと思うこと。本当に欲しいと思うものがあるなら、値段が高くても思い切って買った方がいい。妥協して別のものを買うと、なんとなく自分の中にわだかまりが残って、結局本当に欲しかったものを買ってしまうと気づいたんです。」
常に持ち歩いているライカは、その経験を象徴する。はじめは高価なライカを敬遠して別のカメラを何年か使ってみたものの、画質はもちろん、手に持った感じ、シャッター音、全てが違い、改めてライカが自分好みだと気づいた。結局最初から欲しかったライカを手に入れた。
所有するレンズは4本。中でも王道のApo-Summicron 50mmがお気に入りだ。実は一度、キャンプ中にレンズごと水没させてしまったことがあり、代用品も考えたが、やはりライカを選んだという。
腕時計はロレックスとティファニーのダブルネーム。一度手放したことがあるものの、やっぱりもう一度欲しくなり、同じものを手に入れた。そこには現在5歳になる息子への想いもあった。
「高価なものでも、いずれ子どもに渡せるものと考えれば、次の時代にも価値のあるものを、と考えるようになりました。丁寧に使って、受け継いでいくものとして持っておけばいいんだなと。」
「ノートは以前、竹尾のものを気に入って使っていました。そのノートは、竹尾オリジナルの薄い紙で、裏が透けて見えるのがよかったんですよ。透けるのを嫌がる人も多いですけど、僕は逆に、ページをめくっているのに前に書いたものの存在が見えているのがいいなと思ったんです。過去が現在に影響を与えてくれる感じですね。気に入っていたのですが廃盤になってしまい、それからはずっとこのモレスキンのノートを愛用しています。書きやすく一年に数冊使います。」
Goods
谷尻誠氏が選ぶyuhakuのアイテム
今回、谷尻さんに選んでいただき贈らせてもらったのが、手揉み加工 ブックカバー(単行本サイズ)。
直接革を揉み込むことで表面にシワをつけ、職人によるyuhaku独自の手染めのグラデーション。手作業による自然な移ろいと独特の表情も持たせた大人の逸品だ。
「yuhakuさんの商品は、どれも品がいいですよね。手触りも心地いいです。僕のお気に入りポイントは、この横に付いているしおり。すごく便利なんですよ。」
YVR241 手揉み加工 ブックカバー (単行本サイズ)
商品番号:YVR241
カラー:Blue商品ページはこちらから
Profile
建築家 / 起業家
谷尻誠
1974年広島県生まれ。穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て2000年にSuppose design office 設立。これまで手掛けた作品は住宅だけでも100を優に超え、2010年ミラノサローネでの光のイスタレーション〈Luceste : TOSHIBA LED LIGHTING〉や〈まちの保育園 キディ湘南C/X〉など公共施設のインテリアデザインの仕事も話題に。「建築をベースに新しい考え方や、新しい建もの、新しい関係を発見していくこと」を自身の仕事としている。
穴吹デザイン専門学校特任教授、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授。
社食堂、絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、Bird bath & KIOSK、tectureを経営。
https://suppose.jp/
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